僕はユナに言われるがまま、作曲したBGMを彼女に聴かせてあげていた。
ユナは僕に執筆した詩や昔作詞した作品を披露してくれた。
彼女が書く詩はどれも心を揺さぶるものばかりで、僕のつたない曲とは大違いだった。
僕とユナは学校帰りのカフェで互いの作品を交換するのが習慣になっていた。
そのたびに、僕は彼女と比較して落ち込んでいたのだけど、彼女は僕とは正反対だった。
「やっぱり、タクヤくんが作るBGMはすごいよ。絶対、才能があるよ」
そんな風に必ず、僕を、僕の作品を肯定してくれていた。そのうえで、こう言っていた。
「タクヤくんがBGMじゃなくて、曲を作ってくれたら、絶対私が作詞するんだからね!」
僕はその言葉に胸が高鳴った。
僕が作った曲にユナの歌詞が合わさるってとてもわくわくする。
「わかった! 僕が作曲したらユナが作詞してね!」
「約束だよ、楽しみにしてるから!」
僕は意気込んで曲作りを始めるようになった。
どんな曲調がいいかなとか、どんな曲を参考にしようかとか、いろいろ作り方を探していた。
でも、作曲はそう簡単に進まなかった。
5月の大型連休前にユナと仲良くなった僕は、連休中に作り上げるつもりでいた。
それが上手くいかなかったので、僕は焦っていた。
今思えば、気持ちだけが焦っていて、全然曲作りできるような心境ではなかったのかもしれない。
当時の僕は、早くユナに歌詞をつけて欲しいという焦りがより余計な焦りを生んでいた。
それでも、そんな僕をユナは粘り強く励ましてくれた。
今、振り返ればよくもまぁあんなに根気強く接していたものだと感心するくらいだ。
僕だったら、途中で音を上げているだろう。
「大丈夫だよ、そんな焦らなくてもタクヤくんはいい曲を必ず作れるよ」
「そうだといいんだけどな……」
「そうだよ、まだ時間はたっぷりあるから、焦らずゆっくりやっていこうよ」
ユナの言う通り、僕たちには時間がたっぷりある。本当にそう思った。
でも、時間なんて、本当は残りわずかしかなかったことに、僕たちは気づかなかった。