小説「何もないところにあるもの」 - 3/5

作曲がなかなか上手くいかないまま、気づけば梅雨が明けていた。

期末テストも終わり、やっと作曲に集中できるかもしれないと思った。

テストの結果も悪くなかったので、僕は気持ちを切り替えられると安心していた。

 

ところが、ユナが学校を休みがちになっていた。

どうやら、発熱や倦怠感がひどいらしく、食欲もないらしい。

 

「風邪でも引いちゃったのかなぁ……こんなにしんどいの初めて」

「長引くようならちゃんと病院に行ったほうがいいかもね」

 

そんな日常的なメッセージのやり取りをしていたし、僕もユナもすぐに体調が回復するだろうと思っていた。思い込んでいた。

 

その後、ユナの体調は回復するどころか、悪化の一途をたどり、学校をずっと休むようになってしまった。

ユナの友人たちからも彼女の体調について尋ねられたこともあったが、僕もわからないと答えるしかなかった。

結局、彼女は夏休み前の1週間以上、一度も登校することはなかった。

 

そのころには、ユナからのメッセージが途絶え始めていた。

メッセージを返す気力もないくらい熱が出ているのかもしれない。

わざわざ、こっちからメッセージを送るのも悪いと思って、僕からも控えるようになった。

 

夏休みに入って、数日経ったころ、僕は自分の部屋のベッドに寝ころんでいた。

その日は、猛暑日になると天気予報で言っていて、外出する気になれなかった。

だけど、ユナと連絡すら取れないことがあまりに退屈だった。

今日は両親も出かけていて、ご飯の用意もされていない。

カップ麺でも食べようかとベッドを出ようとしたその時、

ふと、スマホに見知った電話番号から着信があった。

 

「もしもし」

「タクヤくんですか? ユナの母です」

 

ユナのお母さんからの電話だった。不意に嫌な予感がした。

 

「おはようございます、いつもお世話になっています。」

「ユナからよく話を聞かせてもらっているわ。素敵な音楽を作っていると」

 

ユナがそんな風に僕のことを家族に話しているのかと思うと何とも言えないむず痒い気分になった。

 

「ありがとうございます。それで、どうされたんですか?」

 

ユナが僕のことを褒めていることを伝えるためにわざわざ電話をかけてきたわけじゃないだろう。

 

「他の人には伏せていて欲しいのだけど、タクヤくんはユナと仲良かったから伝えておこうと思って……」

「え? 何か、あったんですか」

 

ユナのお母さんは、一度、深呼吸をしてから言葉を口にした。

 

「ユナの病気がわかったの。それが難病で症状が重たいから入院することになったの」

 

僕はスマホ越しに発せられる言葉の意味が僕には一瞬理解できなかった。

 

ユナの病気は、自己免疫疾患の難病だった。

発熱も倦怠感も食欲不振も、その症状だったらしい。

今は、他の症状も強く出ているらしく、身体を動かすのも辛いらしい。

その難病は命に関わるものらしく、ユナにもそのリスクはあると……

 

僕は居ても立っても居られなくて、ユナが入院している病院を教えてもらい、すぐに向かった。