小説「何もないところにあるもの」 - 4/5

病院に向かっている間、僕は自分を責めていた。

時間なんていくらでもある。ゆっくりやっていけばいい。

ユナが言ってくれた言葉をそのまま受け止めていた。

でも、時間は限られたものだ。

ユナの身にいつなにが起きるかわからないし、僕だっていつどうなるかわからないのだ。

 

冷房の効いたバスを降りて、外の蒸し暑い空気と強い日差しを受けて、クラっとしたけれど、そんなことをお構いなしに僕は、病院の敷地に向かって走る。

病院に着き、受付で彼女の病室を教えてもらった。

病室に向かうと、ベッドで横になりながらもノートを書いているユナがいた。

僕が入ってきたことに気づいたユナは驚いた顔をして、ノートを枕元に隠す。

 

「タクヤくん……来ちゃったんだね……」

「お母さんから話聞かせてもらった……」

「お母さんもなんで知らせるかなぁ……」

 

不満げな口ぶりだけど、どこか嬉しそうな顔をしているのは気のせいだろうか……

 

「ごめん、僕が来たくて、無理やり教えてもらった」

 

首をゆっくり横に振るユナ。

 

「謝ることない……少し、安心したから……」

 

その気だるそうな声がいつものユナではないと思い知らされて、僕は思わず下唇を強く噛んだ。

 

「ごめんね、身体起こすのもしんどいんだ……良かったら、傍に座って……」

 

僕は無言のまま頷いて、促されるまま椅子に座った。

 

「作曲は……上手くいってる?」

「進めてるけど、なかなか難しいね。僕にはできないんじゃないかなってね」

 

すると、ユナは僕の手を握ってくれて笑顔でこう言った。

 

「大丈夫。私にはない神様からの贈り物が君には必ずあるから。きっといい曲が作れるよ」

 

その時の笑顔が今でも忘れられない。

元気がないのにも関わらず、気丈でとてもはっきりとわかるくらい僕を信じてくれている。

そんな素敵な笑顔だった。

やっぱり、ユナはユナのままだった。

 

僕はその時、心に決めた。

ユナが元気になれるような曲を作ろうと。

 

落ち込んでいる暇なんてない。つらい状況なのに、それなのに、僕を励ましてくれたユナに応えるために、僕は落ち込んでいる場じゃないんだ。

 

それから、僕は一心不乱に作曲に時間を費やした。

その時に、焦りはなかった。ただ、いい曲をユナに聴かせてあげたい。

その想いは、一つだけだった。

 

僕がその曲を作り上げたのは、1週間後の真夜中だった。

曲を加工して、スマホに取り込んで、明日、ユナに聴かせに行こう。