病院に向かっている間、僕は自分を責めていた。
時間なんていくらでもある。ゆっくりやっていけばいい。
ユナが言ってくれた言葉をそのまま受け止めていた。
でも、時間は限られたものだ。
ユナの身にいつなにが起きるかわからないし、僕だっていつどうなるかわからないのだ。
冷房の効いたバスを降りて、外の蒸し暑い空気と強い日差しを受けて、クラっとしたけれど、そんなことをお構いなしに僕は、病院の敷地に向かって走る。
病院に着き、受付で彼女の病室を教えてもらった。
病室に向かうと、ベッドで横になりながらもノートを書いているユナがいた。
僕が入ってきたことに気づいたユナは驚いた顔をして、ノートを枕元に隠す。
「タクヤくん……来ちゃったんだね……」
「お母さんから話聞かせてもらった……」
「お母さんもなんで知らせるかなぁ……」
不満げな口ぶりだけど、どこか嬉しそうな顔をしているのは気のせいだろうか……
「ごめん、僕が来たくて、無理やり教えてもらった」
首をゆっくり横に振るユナ。
「謝ることない……少し、安心したから……」
その気だるそうな声がいつものユナではないと思い知らされて、僕は思わず下唇を強く噛んだ。
「ごめんね、身体起こすのもしんどいんだ……良かったら、傍に座って……」
僕は無言のまま頷いて、促されるまま椅子に座った。
「作曲は……上手くいってる?」
「進めてるけど、なかなか難しいね。僕にはできないんじゃないかなってね」
すると、ユナは僕の手を握ってくれて笑顔でこう言った。
「大丈夫。私にはない神様からの贈り物が君には必ずあるから。きっといい曲が作れるよ」
その時の笑顔が今でも忘れられない。
元気がないのにも関わらず、気丈でとてもはっきりとわかるくらい僕を信じてくれている。
そんな素敵な笑顔だった。
やっぱり、ユナはユナのままだった。
僕はその時、心に決めた。
ユナが元気になれるような曲を作ろうと。
落ち込んでいる暇なんてない。つらい状況なのに、それなのに、僕を励ましてくれたユナに応えるために、僕は落ち込んでいる場じゃないんだ。
それから、僕は一心不乱に作曲に時間を費やした。
その時に、焦りはなかった。ただ、いい曲をユナに聴かせてあげたい。
その想いは、一つだけだった。
僕がその曲を作り上げたのは、1週間後の真夜中だった。
曲を加工して、スマホに取り込んで、明日、ユナに聴かせに行こう。