翌日も、相変わらず夏真っ盛りで、連続猛暑日だった。
「え、曲できたの? 嬉しい! 聴かせて?!」
その日の彼女は、いつもより元気だったのを良く覚えている。
「うん、ユナが元気になれるようにって曲を作ったんだ」
早速、ユナはイヤホンをつけると、初めて曲を聴いてくれた時のように、リズムに合わせて頷いていた。
曲を聴き終わると、ユナは少し目を赤くしながら、言った。
「すごく優しい曲。耳に残るいい曲だと思うよ」
「ありがとう、ユナからそういわれると自信が湧いてくるような気がするよ」
「あ、そうだ……私もね、歌詞を考えていたの。良かったら、この曲に乗せて欲しいな」
「いいよ。その歌詞、教えてくれる?」
すると、ユナは恥ずかしいのか、顔を赤らめながら、ノートを差し出してきた。
以前、枕元に隠していたノートだった。
受け取り、ノートを開こうとしたら、ユナは慌てて止めた。
「ダメ! 今、見ないで! 恥ずかしいから、お家に帰ってから読んでくれる?」
「わかったよ。そんな恥ずかしいことなの?」
「いいから、家に帰ってから読んで!」
言う通りにしないと、ユナが機嫌を損ねてしまいそうな勢いだった。
「また、遊びに来るね」
「うん、待ってる」
そう言葉を交わして、僕は病室をあとにした。
そして、帰宅してノートを開いた。
そこには、たくさんのメモが書いてあった。
難病になってショックだったこと。
治る見込みがないこと。
でも、作詞は辞めたくないという意志。
僕の曲に勇気づけられているということ。
僕に会いたいという想い。
いろんな彼女の心の叫びがそのノートにはつづられていた。
そして、最後のページに、歌詞が書かれていた。
歌詞を読み終えたとき、ふとユナの声が聞こえた。
「ありがとう。ごめんね」と。
その直後に、ユナが容態が急変して、先ほど息を引き取ったと彼女のお母さんから連絡を受けた。
僕が最後に会いに行く前日まで彼女は弱っていたそうだ。
でも、会いに行ったときは、本人もびっくりするぐらい元気になっていたらしい。
なんでも、僕が曲を完成させて、聴かせてくれる日がその日のような気がすると、彼女は言っていたらしい。
葬儀の際、彼女のご両親に僕は何度も礼を言われた。
つらい時期でも、頑張っていられたのは、僕のおかげだと。
嬉しいと思う反面、僕は何もできなかったと無力感を覚えていた。
でも、彼女の歌詞に書いてあった『何もないと嘆いている君には強さがある』という言葉を思い出していた。
それに、あの時、手を握ってくれたあの時の言葉
『私にはない神様からの贈り物を君は必ず持ってるから』
それも歌詞に込められていた。
僕がそうだったように、彼女もまた、僕を励まそうとしてくれていたんだ。
それは仲良くなってからずっとそうだったんだ。そしてこれからも……
ユナのお墓の前で手を合わせた後、僕はぽつりとつぶやく。
「もう、あれから5年も経っちゃったよ。時間が経つのは早いのかな」
それとも、まだ5年なのか……わからない
「お彼岸になったら、また来るね」
彼女が遺してくれたノート。僕はそれを肌身離さず持っている。
ノートがあれば、彼女が傍にいるような気がするから。
了