既視感の色 - 1/10

「ニクスモール、ただいま開店です!」
長く退屈なオープニングセレモニーが終わり、やっと店内に入れる。
この地域ではもっとも広いショッピングモールの開店初日だ。
開店初日なら何か目新しいものがあるだろうか?
ありきたりでつまらない私の世界の中で……
私が店内に入った時には店内は人で溢れていた。
県内初出店の店もあるから、それ目当ての人も少なくない。
流れに任せて私もついて行く。
何か目新しいものがないだろうかと。
でも、そんなものはないことを私は知っている。
店舗内を見てもモノクロ。
置かれている商品を見てもモノクロ。
何よりも、そこに集まっている人たちが一番モノクロだった。

私にはどれもが知っているものでしかなかった。
初めて見るものなのに、私はそれらを知っている。
見たことも触れたこともないのに、私にとって初めてのものではなかった。
私にはモノクロに見えるものはすべてが既知のものだった。

私は全てのものに既視感を覚えずにはいられない。
新鮮なものはなく、すべてがありきたりでつまらないものにしか思えない。
どこへ行っても、モノクロの世界が広がる。既知の世界、つまらない。
それでも、私は渇望する。未知の体験を。

どこを訪れても未知を求めるのが私の生きる目的となっている。
そんな風に、息巻いたところで、なかなか見つけることができない。
まさに前途多難である。

「物質世界である実数領域では私の未知は見つけられないのかぁ」
昔のゲームの言葉を用いてぼやいてみる。
気を取り直して、ショッピングモールを巡ってみる。
何か、ありますように……

「なかった……ない……ない!」
通路の真ん中にあるソファでうなだれる。
新築、開店初日、県内初店舗、なのに、既知既知既知!!
いい加減、私にも未視感を覚えさせてよ!
心の中で吐きまくって、心を空っぽにしてみた。
ぼーっと、何もない壁を見つめる。
その壁ですら私には……
と思っていたら、その壁が徐々にカラフルに見えてきた。

「え? どういうこと?」
急な未知がやってきて、私は戸惑う。
壁は人のような形で彩りはじめ、より濃くなっていく。
すると、壁の中から人の手が出てきた。