未来視の声 - 1/10

「ニクスモールで幽霊にでくわしたぁ!?」
口に運ぼうとしたコーヒーカップを止めた友人。
「そう! しかも、オープン当日だったのよ」
私は矢継ぎ早に続ける。
「壁を突き抜けて出てきたのよ!!」
変わらず、友人はカップを口元で止めたまま、あんぐりと口を開けている。
「しかも、気づいたら虚数領域に迷い込んでたの!」
私が熱弁しようとしたら、友人はコーヒーを飲み始めた。
「私にとっての初めての未知だったの!」
友人はコーヒーを飲み干して、カップを皿に置く。
「葵?」
「なに?」
私が機嫌よく返事をすると、友人はため息をついた。
「あのね、あんたが既視感に囚われてるのは知ってるよ? それに、幽霊のことは私にはわからないわ」
今度は友人が矢継ぎ早に続けた。
「それよりも、来週提出予定の会議の資料! 提出、まだよね! 先に、現実見なさいよ、現実を!!」
非情にもリアルすぎる現実の話を持ち込んでくる友人。
ぐぅの音も出ない。早めに戻って仕事するか……
と、その前に、友人とはカフェで別れた私はショッピングモールへ足を運ぶ。
ニクスモール。
半年前、オープン当日に不思議な体験をしたショッピングモール。
ここは私の世界観を覆した場所だ。
私は、どんなに初めての体験をしたとしても、既視感を覚えてしまう特性を持っている。
だけど、私はここで未知の体験をした。
精神体がいる場所、虚数領域(と私は勝手に呼んでいる)に迷い込んでしまった。
そこで、私は義雪さんという未知に出会った。
義雪さんは現実世界である実数領域(と私は勝手に呼んでいる)を彷徨っていた精神体、わかりやすく言えば幽霊だった。
虚数領域に迷い込んだ義雪さんに助けられて実数領域に戻ることができた。

ちなみに実数領域や虚数領域という呼び方は昔のゲームの設定から引用した言葉だ。
まさか、本当に虚数領域が存在するとは思いもしなかったけれど……

そして、義雪さんは無事でいるのだろうか? 幽霊に無事というのも変だけど……