「実験体『一つの器』はまだ見つからないのか!」
口元まで近づけたピンマイクに向かって、罵声を浴びせるオクタヴィアン。
マリーことルイーズが欲していた計画で、オクタヴィアンもあわよくば自分の物にしたいと
思っていたプロジェクト・メメントモリの実験体が、今、目の前にある。
だが、その烏丸恭治は予想外な行動を取って逃走を図っている。
ルイーズに時間がなかったように、オクタヴィアンもまた時間がない。
一刻でも早く実験体を見つけ出して、彼らに使用された転移技術を手に入れなければならない。
その焦りが部下たちへの罵声に変わっている。
しかし、オクタヴィアンにとっては罵声を浴びせる会話が当たり前で、自分の行動こそが正しく、自分の言動こそが正論だと信じて疑わない。
自分の思い通りにならない部下たちが無能なだけで、自分の采配に間違いはないと思い込んでいる。
「烏丸恭治としての生体認証によるセキュリティ解除は無効化したんだ。研究所はおろか、この特殊研究棟からの逃亡すら不可能なんだぞ! それなのに、どうして発見出来ないんだ! 貴様らは、ただの一研究員すら見つけられないほどの能無しか!」
オクタヴィアンの部下は、彼の遠慮のない罵声に耐えながら通話を最後まで聞いた後、改めて捜索を再開すると答えた。
その言葉に対してもオクタヴィアンは、「さっさと行け!」と不快感を露わにして通話を切った。
「それにしても、烏丸恭治はどこに隠れている?」
「どうやら、彼は研究員だけれど、監視カメラの死角や人目につかない場所を熟知しているようですね」
オクタヴィアンの独り言に対して、やや斜め後ろの位置で一緒に歩いているガラムが携帯端末の画面をスライドさせながら、そう告げた。
「どういうことだ?」
もっとわかりやすく説明しろと暗に込めた言葉をオクタヴィアンは投げかける。
「前にも同じようなことがあったと、研究棟制御室のログに残っていました。烏丸が個室から制御室に誰にも見つからず、監視カメラに一切見つかることもなく、制御室にたどり着いたという情報です。もっとも、その時は、彼が使用していた携帯端末に仕掛けが施されていて、すぐにルイーズ元所長に見つかったようですけれど」
「ということは、今回も何かしでかすとでも言うのか?」
その問いに対して、ガラムはうなずいて答えた。
少し後ろに振り向いてガラムを見たオクタヴィアンが対処しようとした時、それは起こった。