プロジェクト・メメントモリ 後編 - 13/24

しかし、上手くやるといいながら、ガラムたちは転移和沙を排除するどころか、いとも簡単に恭治の逃走を許してしまっている。

サンクシオン機関など役に立たない。

こうなったら、ウェイク和沙自身が直接恭治を探し出し、すぐに転移和沙を恭治から追い出してしまえばいいのだ。

ウェイク和沙は、どういった手段で転移和沙を排除するのかわかってもいないのに、短絡的な発想で恭治を探し求めていた。

「恭治……恭治……」

気づいた時には、まともな思考も失うほどの酷い頭痛に襲われていた。

そして、その朦朧とした中で考えられるのは、恭治という名前だけだった。

何度も祈るように恭治の名前を呼び続ける。

薄れた本能のままに進んで行く足は、どこかの廊下にウェイク和沙を運んで行った。

廊下の角に差し掛かったところで、突然廊下の電灯が全て消えて、ウェイク和沙の視界は真っ暗になった。朦朧とした意識の中では、大した変化ではなかったようで、意に介さず廊下の角を左に曲がっていた。

すると、反対側から駆け込んでいた何者かとぶつかってしまい、ウェイク和沙は後ろに倒れて尻もちをついた。

その直後に、廊下の電灯が再び点灯し、天を仰ぐようにぶつかった相手の顔をゆっくりと見上げたウェイク和沙は、その人物の名前をすがるように呼んだ。

 

七分前

 

恭治はサンクシオン機関に発見されないように、部屋を立ち返りに移動しながら、遠回りしつつも制御室を目指していた。

制御室にたどり着くなり、恭治は大きいため息をついた。拳銃を使用することなく来れたことに安堵した。

一呼吸おいて、制御室のコンピューターに携帯端末を接続する。

転移和沙には、恭治が何をしようとしているのかわからなかったけど、端末操作の邪魔になると言われ、しばらく表に出て欲しくないと恭治に頼まれたので、黙って恭治の作業が終わるのを待っていた。

そういえば、前にも同じようなことがあったような気がしたのだけれど、転移和沙は思い出すことができなかった。つい最近のことのようにも思えるし、遠い昔の記憶のようにも感じる。

やはりその時も、制御室で恭治が携帯端末を操作していたということはわかるのだが、それがいつだったかがわからないのだ。

もしかしたら、転移和沙という人格が消えかかっているのかもしれない。

記憶力が落ちたことで存在が希薄になってしまっていることがよくわかった。

「よし! 出来た!」

大きな声を出すわけにはいかないので、小声で満足したように声を出した恭治。

一段落したようなので、恭治が落ち着いたのを見計らって、転移和沙が表に出てると何の操作を行ったのか尋ねた。

「三分後に、あらゆるデータを初期化させるウイルスをここ特殊研究棟全体に流し込むと同時にすべてのブレーカーを落とすようにプログラムを組んでみた。基礎的なものは事前に作ってたんだけど」

制御室内の正面ディスプレイが鏡の代わりになって、うっすらと恭治の顔が映った。

満面の笑みを見せながら、とんでもないことを言っている恭治に転移和沙はおののいた。

「ちょっと、何を考えているのよ! そんなことをしたら今までここで研究されてきたデータがなくなるってことじゃない」

正面ディプレイに映る恭治の顔に転移和沙は訴える。

次に恭治が表に出た途端に、恭治は冷め切った目で正面を見据えた。

「それのどこに問題があるっていうんだい? 和沙に危害を加えようとする奴らから逃げるためには、必要な措置だよ。生体認証登録も初期化されるから、サンクシオン機関に感づかれる前に、ここをさっさと逃げ出せる」

転移和沙は、言葉を失った。確かに、自分のために行動してくれているのかもしれないが、今の恭治は無茶苦茶な行動をし始めている。

このままでいいのだろうか?