プロジェクト・メメントモリの実験体『一つの器』を手に入れたオクタヴィアンだったが、プロジェクトに関するデータをかき集めさせていた。
ところが、最終的には恭治からも直接データを集めたいと思っているのに、ガラムがそれを認めなかった。
まだ時期が早いと先送りにしていくので、真山が使っていた事務室で待たされるというもっともストレスを感じることを強いられていたオクタヴィアンは苛立っていた。
何故、今すぐに行ってはいけないのかと尋ねても、ガラムには、タイミングというものがあるのよ、とはぐらかされた。
『一つの器』を監禁して四日、ガラムは別の場所に用があると言って研究所日本支部を離れている。
「タイミングがあるだと? さっさとデータを収集して処分すればいいじゃないか」
オクタヴィアンも焦っているのだ。
マリーの脳が老化によって、くも膜下出血を発症したように、オクタヴィアンの脳も実験の影響で損傷状態が激しく、いつ死んでもおかしくないのだ。
だからこそ、使い物にならない脳を破棄して、とりあえず検証済みの安全な脳である『一つの器』に逃げたい。
目の前に、欲しかった禁断の果実がぶら下がっているというのに、手が届かないとは耐え難い苦痛だった。
怒りのあまりに、デスクに積み重なっている書類の山を思いっきり撒き散らす。それでも、怒りは治まる気配はなく、今度はデスクを力いっぱい叩きつける。
デスクに伏しながら呻く。
「くそ、俺には時間がないんだ。早くしないと……」
そう、オクタヴィアンもまた、脳の機能停止の危険性が眼前に迫っているのだ。
視界の暗転、極度の頭痛、左半身の一時的マヒなど、明らかな異変が頻繁に起きている。
脳検査を行っても、明らかな感覚器官に対する脳障害が起こっていることがわかった。
もう、長くは生きていられない。このままではルイーズと同様に脳病を患って、そのまま息絶えてしまう運命にある。
そんな運命を受け入れてたまるかと、思っていたところでプロジェクト・メメントモリの存在を知った。
それはルイーズと同じくオクタヴィアンにとって禁断の果実である生命の樹の実のように思えた。
禁断だからこそ、手に入れたいのだ。
「プロジェクト・メメントモリの技術さえあれば、俺は……」
「あら、そんなことをあなたが気にする必要はないわ」
唐突に女性の声が扉の方から、聞こえたので顔を上げて見据えると、そこにはガラムの姿があった。
四日ぶりに顔を見せたガラムにオクタヴィアンは、まず罵声を浴びせた。
「今までどこをほっつき歩いていやがった! さっさと俺を『一つの器』に転移させろ!」
怒り狂った様子のオクタヴィアンとは対照的に、ガラムは恐くなるほどに落ち着いていた。
「する必要はないわ。あなたには無意味なことだから」
「どういうことだ?」
ガラムが言っていることが理解できない。今の今まで、意見はするものの、頭ごなしにガラムがオクタヴィアンの意向を否定することはなかった。
今までのガラムの姿勢がそうであったため、余計にオクタヴィアンの感情が激昂していく。
「つまり、こういうことよ」