気が付くと、どうやら和沙と一緒に眠ってしまったようだった。
僕が表に出てまぶたを開いて、時計を見ると日付は変わり日の出の時間になっていた。
そして、僕は気づいた。右目から一筋の涙が流れていたことに。
ふいに僕は和沙の名前を呼ばないといけないという衝動に駆られる。
和沙、和沙、和沙……
かすれた声で彼女の名前を呼び続けた。それでも、和沙は返事をしなかった。
もう、和沙は消えてしまった。
僕は真っ白な部屋の隅で拘束具のまま俯いていた。僕の心もこの殺風景な部屋のように何もなくなっていた。
最後の涙は、僕のものだったのか、それとも彼女のものだったのか……
それすらも僕にはわからなかった。
それからしばらくして、拘束されていた僕はガラムとなったルイーズさんによって、解放された。
ルイーズさんにとって、プロジェクト・メメントモリは成功に終わり、僕と和沙が体験したことによって生まれたデータが参考となり、ウェイクと転移という同一人格が重複してしまうリスクや、和沙のように転移した人格が消えないように済む技術を確立したらしい。
嬉々とした様子で、「恭治、あなたたちのおかげで、私は永遠の命を手に入れることが出来たわ」と、ルイーズさんは僕に言った。
「ふざけるな! 僕たちはあなたのために存在する駒なんかじゃない! 和沙を救うというあの言葉はどこへ行った!?」
震える手を抑えるために歯を食いしばっている僕に対して、ルイーズさんは鼻で笑った。
「何を些末なことを言っているの? あなたたちだって、非合法の研究員でしょう? 切り捨てられることを承知で研究をしていたはずよ? 最初からあなたたちに選択肢なんてなかったのよ」
ああ、やっぱり、僕たちはモルモットでしかなかったのか。
それにこの人は私利私欲のために生きているに過ぎないと、今はっきり感じた。
そして、和沙を失った僕は間もなくアンジェリーク研究所を辞めた。