義雪さんではなく私の方が虚数領域に迷い込んでいた?
「じゃ……じゃあ、未知を感じられていたのは、虚数領域にいたから?」
「そういうことじゃないかな……」
「義雪さん、後ろ!」
化け物が義雪さんに襲いかかろうとしていた。
でも、義雪さんは意に介さず、ドアを閉めようとする。
「いいかい、葵。君が既視感に囚われているのは何か理由があるはずだ。何か意味があるはずだよ。だから……」
これからも、諦めずに生きてくれ……
そう言って、義雪さんはドアを閉めた。
その瞬間、カラフルに感じた情景がいつものようにモノクロのように感じる情景に変わった。
数日後、改めて、ショッピングモールへ遊びに来たが、何事もなかったように日常が溢れていた。
義雪さんが現れた壁の近くのソファでぼうっとしても、未知の色は感じられなかった。
化け物はともかく、義雪さんもあれから現れることもなかった。
やっぱり、ここは実数領域で、数日前、気づけば私は虚数領域に迷い込んでいたようだ。
虚数領域での出来事は未知のものだった。
「かといって、二度と体験したいとは思いたくない体験だったなぁ」
伸びをしながら、そんなことを呟いてみる。
それでも、やはり何も起きない。
「それにしても、義雪さんが言っていたことって何だったんだろう……」
私が既視感に囚われているのには何か意味や理由があるって。
この既視感の実数領域で、私の特異な性質が役立つことがあるのかもしれない。
それを探し続けよう。
きっと見つかると信じて。
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