そして、そのままスーツ姿のメガネをかけた少し小柄な男性が現れた。
一見するとありきたりな一般の男性だけど、私にはとても未知だった。
ってか、なんで、この人は壁すり抜けて現れているの?
男性は私を見て、驚いたような表情をしている。いや、驚いているのは私なのよ。
「え? もしかして、俺のこと見えてる?」
「ええ、見えてますけど、あなた人間ですか?」
「やっと、俺を認識してくれる人に出会えた!」
男性は私のことはよそ目に、今度は喜び始めた。
一体なんなんだ。
次第に歓喜しきった男性は、やっと私に気づいてくれた。
「ああ、ごめん。俺を認識してくれたと思って大喜びしてしまった」
「落ち着いてくれ何より。それで、あなたは何者なんですか?」
「ああ、俺は、虚数領域に行けないままでいる精神体。俗に言う幽霊だな」
幽霊? しかも、虚数領域? 本当に?
「それにしても、君は俺をわかるようだけど、どうしてだ?」
「どうしてだって言われても……あなたが幽霊なら霊感がある人なら認識できるんじゃないですか?」
ところが、男性の幽霊はうな垂れてこう言った。
「俺もそう思ってた。でも、俺に気づいてくれる人は誰一人としていなかったんだ」
そうか、だから私はこの人がモノクロに見えなかったのか。
どこかホッとした私がそこにいた。