既視感の色 - 3/10

私は身体の中が暖かくなっていき、それは次第に熱くなっていった。
そう、私は未知と出会ったんだ!

「私、葵っていうの。私、幽霊を見た初めて! あなたの名前は?」
「生前の名前は義雪っていうんだ。そりゃ、幽霊は初めて見るだろうな」
そうじゃない。思いっきり首を横に振る。そうじゃない、そうじゃないの。
「私、今まで初めてだと感じるものが何もなかったの。ただの一つも! だけど、あなたの存在は初めてだと感じる!」

自分でも何言ってんだろう、と思うことを平然と口にした。でも、言わずにはいられなかった。
それだけ、私は歓喜に満ち溢れていた。
実際、義雪さんは若干引き気味になっているようだった。

「お、おう。初めてというのがよくわからんが、俺も存在をわかってもらえたから、winwinだ」
幽霊でも私の既知感はわからないものなのかと思いつつ、私は事情を話してみた。
立ち止まったままっていうのも変なので、歩きながらだ。

「ほう、つまるところ、葵は生まれてこのかた、未知を感じたことがないと……」
わかっているようなわからないようなという感じで義雪さんはうなっていた。
「で、私が初めて未知を感じたのが幽霊である義雪さんってことになるわね」
「幽霊なんて、実数領域にいていい存在じゃないから、未知であるのは当たり前と言えば当たり前だが……」
そういえば、義雪さんは虚数領域に行けないって言っていた。
「その未知の義雪さんは、どうして彷徨っていたの?」
帰り道でも探していたのかな?

「虚数領域に向かいたいんだけど、行き方がわからなくてね。話しかけても誰にも認識されないし……」
「だから、彷徨っていたってわけね」
「そう、早く行かないと俺が狂ってしまうってことだけは認識しているからね」
「は?」
いきなり何言ってんの、この幽霊。