既視感の色 - 8/10

2階の廊下を駆け抜けて、先にあるエスカレーターを駆け抜けて、3階へ。
3階でも同じ工程を行って屋上へ向かう。
物理法則無視して先回りされなければ、私が走る方が速い。
これならいける!

「なぁ、葵。もし、逃げきれなかったら、どうするんだい?」
唐突に義雪さんが尋ねてきた。
「そんなのわかんないよ……今は屋上に逃げることしか思いつかないんだから」
野暮なことを聞かないで欲しい。
幽霊の義雪さんは平気かもしれないけど、私は今必死なんだ。
「そうか、君は立派だな」
「なに? こんな状況下で、なんで私は褒められてるの?」
「今、やるべきことを悩まず、行えているんだな」
それは当たり前だ。やらなきゃ私は、あいつに捕まってしまう。
「葵は既視感しか感じられないこの世界でどうして絶望していないんだい?」
「未視感を得られるものは必ずあると信じたかったからかもね。実際、諦めずにいたら、未知の義雪さんに出会えたし」
こんな目に遭うとは思わなかったことは言わずもがなだけど……
「そうだよな、諦めずに足掻くことが重要だったよな」
そういうと、義雪さんはまた黙ってしまった。

「はぁはぁ……やっと、屋上」
乱れた呼吸を落ち着かせながら、屋上につながる自動ドアの前に立った時だった。
自動ドアが開かない。
わけがわからず、ドアを叩いた。その時に、違和感を覚えた。
ドアが固いのにも関わらず、弾力があるという奇妙な感触だった。
「何……これ……」
明らかに私が知っているドアの感触ではなかった。
そこには既視感はなく、未視の色であふれていた。

ドアの異様さに動揺していると、エスカレーターの方から気配を感じた。
化け物が上がってきたのだ。
いつの間にか、追い付かれていた。

「そんな……ここまでやってきたのに……」