走ったことで身体が温まっている二人のために、少し冷えた建物の影に移動した。
ゆっくりと呼吸を落ち着かせてきた春香が先に口を開いた。
「さっき、コンビニから雅美ちゃんのドッペルさんが逃げたから追いかけてたの。だけど、足が異常に速かったの。無理、あれは陸上部だった私たちでも追い付けない。それで、ドッペルさんが立ち止まったって思ったら、メガネかけてたから雅美ちゃんだったの」……うーん、支離滅裂だ。
要するに見失ったってことね。っていうことは本当にいたってことか。それと、私が気付かない間に後ろを走り去っていったのね。
私のそっくりさん、春香命名の通称『ドッペルさん』は私と同じ容姿で着ている服装も私のジャージと同じものだったらしい。唯一異なるのは、彼女はメガネをかけていなかったということだ。
私は、ドッペルさんらしき私のそっくりさんが無銭飲食したことで母さんに無理矢理外に出されたことを二人に説明した。
それに対する美里と春香の反応は、「雅美が外出してる。大丈夫?」とか、「雅美ちゃん、頑張ったね」と、本題と全くもってずれているものだった。私が外出したという事実への驚きようは、ドッペルさんを見かけたものより大きかったみたいだ。
とりあえずドッペルさんの話に戻そうとしたところで、母さんが近くに寄って来るのがわかったので、小さい声で二人に内緒にするように促すと頷いてくれた。
「あら、美里ちゃんと春香ちゃん、こんにちは。いつも、うちに来てくれてありがとね。申し訳ないんだけれど、私はすぐに仕事に戻らないといけないから、雅美を送ってあげてくれないかしら?」
「おばさん、こんにちは。私たちは構わないです。雅美ちゃんともお話したかったですから」
丁寧な口調でやんわりと誤魔化してくれる春香に感謝していると、美里が私に耳打ちしてきた。
「これから、ドッペルさんを追跡するわよ。雅美もこれ以上悪さをされるのは嫌でしょ?」
それはもちろんだ。私だってこのまま私を野放しにしてたまるもんですか。
言い回しがややこしいけど、とにかく捕まえるの!