私たちは、ドッペルさんが走り去っていったという南北通りの北側に向かった。
通りにはお店が軒を連ねていて、私たち三人を見かけると声をかけてくれる。特に、私に。
「おお、雅美ちゃん。久しぶりに顔見せてくれたな。また来てくれよ」
「雅美ちゃん、また遊びに来てくれたのね。ありがとう」
私は、その言葉にありがたいと思う一方で、商店街のみんなが裏では私を嘲笑っているのではないかという思いを抱いていた。やっぱり、外に出ると恐いよ。
返事もせず俯きながら走る私だったけど、早くその場から逃げ出したくなって、走る速度を速めた。
美里は置いて行かれないようにと速度を上げて、私の肩を掴んだ。
「みんなはあんたを嘲笑うようなことはしないよ。私が言うんだから信じなさい。気持ちの切り替えが難しいのはわかるけどさ」
美里たちが言ってくるのは少し説得力があるように思える。私だって信じたいよ。
理屈ではわかってても、心がそれを許してくれなくて苦しんでる。そのことは何度か美里たちにも訴えたこともあったし、ある程度はわかってくれている。
それでも、完璧に私の思いをわかってくれているわけじゃない。それは、私が引きこもりだからとか関係ない。私も大好きな美里と春香の思いを完璧にわかってあげられていないんだから仕方がないんだ。
「あら、雅美ちゃんじゃない」
はっきりと響く大きな声をあげられたので私たちは思わず、立ち止まった。
肉屋を営んでいる坂本のおばあちゃんだった。
「さっき、すごい速さで走ってたのに、もう戻ってきたのね。まるで、陸上選手みたいだったわねぇ」
坂本のおばあちゃんの証言では、メガネをかけていない私(要するにドッペルさん)は、やはり北側に猛ダッシュしていき、その直後に、私たちが南側から走ってきたので驚いたとのこと。
とりあえず、おばあちゃんに話を合わせることにして、適当なことを言っておいた。
「ほら、私って陸上部じゃない? だから、徒競走の練習を兼ねてるんだ。それでさ、その私ってどっちに行ったかわかる?」
「そのまま南北通りの北側に行ったわよ」
「ありがとう、おばあちゃん。美里、春香、行こう」
三人一緒に頭を下げると、私たちはドッペルさんを追うべく改めて走った。