美里と春香が私にそっくりだと言っていたけど、そんなそっくりな人がそうそう町を歩き回っているわけがないってタカをくくっていた。
でも、実際に直でお目にかかると、恐いくらいに私にそっくりだ。
ほくろの位置すら同じところにある。
人間をコピーしたらこんな風になるのかなって思うくらいにそっくり。
何て、悠長なことを考えていたら、ドッペルさんは私の手を振り払って、南北通りとは反対方向へと走っていく。
「ちょっと、待ちなさいよ!」
私も慌てて追いかける。しかし、驚いたことにドッペルさんの脚力は私と同一人物だとは思えないほどとんでもなく優れていて、私の足では追い着くことなんて到底出来なかった。
私一人では捕まえるのは難しいと思った私は、ジャージの左ポケットに入れていたケータイを取り出すと、まず春香に電話をかける。
公園にいる春香が一番私に近い。それに、春香は三人の中で一番足が速い。
電話が通じると、私はとにかく目の前で起きたことを漏らすことなく春香に伝えた。
「本当にそっくりだったでしょ? それに足も速いって」
二人が言っていたとおりだった。あそこまでそっくりだとさすがに信じるしかないと思った。
ちなみに、春香もちょうど電話をかけようとしていたところだったらしい。
公園にいた人の話によると、ドッペルさんらしき人がフリスビーを投げて犬とたわむれていたとのこと。
犬もすごく懐いていて、すごく楽しそうに遊んでいたらしい。と、春香は言い添えた。
私はくすりと笑ってしまった。確かに私は犬が好きだけどさ。そんなに懐かれてたんだ。
「もしかして、その犬ってゴールデンレトリバーだったりする?」
「そうだけど、どうしてわかったの?」
春香が驚いたように聞き返してきた。
私が好きな犬種の一つがゴールデンレトリバーだ。あの毛並みが良くて、落ち着きのある優しい大型犬。
うちでは父さんが犬嫌いなので飼うことは難しいけど。
まだ幼いころ、公園を訪れてはゴールデンレトリバーを見つけるなり、触りまくっていた。
父さんに飼いたいと頼み込んだこともあった。もちろん、許可されることは一度もなかったけど……
そんな、懐かしい思い出を脳内で再生していると、ケータイにキャッチが入った。ケータイを耳から話して画面を確認すると着信相手は美里だった。もしかしたら、ドッペルさんに関することかもしれない。
「ごめん、美里から連絡が来たから、一旦切るね」
それだけ告げると、私はケータイを操作して通話を美里側に切り替えた。
「もしもし?」
「雅美! ドッペルさんを見かけたわよ!」
「え、どこで?」
並木通りを物色していると、猛スピードで駆け抜けていくドッペルさんが目に映ったので、追い付けないのを承知で追いかけると、ショッピングモールに入っていくのを遠目で確認した。
「だから、すぐに雅美も春香も来て。ショッピングモール内で挟み撃ちにするわよ」