私たちはショップ内の棚から少し頭が出る程度にしゃがんで、互いに指で間合いを確認しながら、ゆっくりとドッペルさんに接近する。
ドッペルさんの左後ろから私、右手側から春香、左手前から美里が、様子を窺う。
ドッペルさんが振り向かない限りは、私たちには気付かないはず。
スタートのタイミングは私が指示することになっている。
ドッペルさんが試聴用のヘッドホンを外した。移動を始めるのかと少し焦ったけど、すぐに隣にあるもう一つの試聴用のヘッドホンを付け直したので、ほっとした。
私は、彼女の顔の左側を眺めていた。全体の顔つきをはっきりと見たわけじゃないけれど、私にそっくりだなと感心した。
服も同じジャージだし、靴も今私が履いているものと一緒だ。
また、音楽を堪能し始めて頭を振り始めた。
私は、美里と春香の顔を窺う。二人とも頷いている。
指で、カウントダウンする。三、二、一、ゴー!
最後の指が折れた瞬間、私たちはドッペルさんを包囲した。
私たちに包囲されたことに気が付いたドッペルさんは、やばいと焦った顔つきになり、律儀にヘッドホンを外してちゃんと元の場所に戻した。
困り顔なところもやっぱりそっくりで、春香も「雅美ちゃんにそっくり」と小声を漏らした。
一方、戦意を剥き出しにしているのは美里だった。
「さぁ、ドッペルさん。逃げ場はないわよ」
冷や汗をかきながらもドッペルさんは平静を装った。
「ドッペルさんってどんなネーミングセンスよ」
強がっても、私たちはじりじりと距離を詰めていき、ドッペルさんは試聴ブースにぶつかるまで引き下がる。
けど、もう逃さない。
私たちは逃げ場を失ったドッペルさんに突撃して、取っ組み合いの結果、ついに彼女を捕まえた。