ドッペルさん - 18/23

私たちはショップ内の棚から少し頭が出る程度にしゃがんで、互いに指で間合いを確認しながら、ゆっくりとドッペルさんに接近する。

ドッペルさんの左後ろから私、右手側から春香、左手前から美里が、様子を窺う。

ドッペルさんが振り向かない限りは、私たちには気付かないはず。

スタートのタイミングは私が指示することになっている。

ドッペルさんが試聴用のヘッドホンを外した。移動を始めるのかと少し焦ったけど、すぐに隣にあるもう一つの試聴用のヘッドホンを付け直したので、ほっとした。

私は、彼女の顔の左側を眺めていた。全体の顔つきをはっきりと見たわけじゃないけれど、私にそっくりだなと感心した。

服も同じジャージだし、靴も今私が履いているものと一緒だ。

また、音楽を堪能し始めて頭を振り始めた。

私は、美里と春香の顔を窺う。二人とも頷いている。

指で、カウントダウンする。三、二、一、ゴー!

最後の指が折れた瞬間、私たちはドッペルさんを包囲した。

私たちに包囲されたことに気が付いたドッペルさんは、やばいと焦った顔つきになり、律儀にヘッドホンを外してちゃんと元の場所に戻した。

困り顔なところもやっぱりそっくりで、春香も「雅美ちゃんにそっくり」と小声を漏らした。

一方、戦意を剥き出しにしているのは美里だった。

「さぁ、ドッペルさん。逃げ場はないわよ」

冷や汗をかきながらもドッペルさんは平静を装った。

「ドッペルさんってどんなネーミングセンスよ」

強がっても、私たちはじりじりと距離を詰めていき、ドッペルさんは試聴ブースにぶつかるまで引き下がる。

けど、もう逃さない。

私たちは逃げ場を失ったドッペルさんに突撃して、取っ組み合いの結果、ついに彼女を捕まえた。