「どう、調子の方は」
「いつも通りよ。一応、勉強も私なりに続けてるし」
「それならいいんだけどさ」
体調を気遣いながらも、本当は心配する必要がないとわかってくれている美里の言葉は小気味良い。
「雅美ちゃん……」
私の右手を両手で握って、瞳を潤ませながら本気で心配してくれる春香の思いやりは美里とは違う形でありがたかったりする。
「大丈夫よ、春香。あんたたちが来てくれるだけでも、嬉しいんだから」
「でも、学校に来れないって、大変なことだし。それに、学校に行こうとしたら、もっと大変な勇気が雅美ちゃんには必要なんでしょ」
「こら、春香。そこは雅美が気にするところであって、春香が凹むことじゃないの」
「でも……」
今にも泣き出しそうな顔をしてる春香は、わからないなりに私の気持ちに寄り添うように努力してくれているんだなって思うと、私の気持ちも温かくなる。
「とりあえず、今日も元気そうで良かった。もし、気が向いて学校行ってもいいかなって思ったら、一緒に行こうね。私たちは雅美のクラスメイトだしね」
「うん、ありがとう。気が向いたら考えとく」
私が少し俯き加減でそう答えたら、美里は私の頭をぽんぽんと撫でて立ち上がった。
それに倣って、春香も立ち上がって部屋を出るので、せめて玄関まで行って見送ろうと思った。
とんとんと靴のつま先が床を叩く音が鳴る。春香はいつも革靴なので、靴を履く時は一定のリズムでつま先で叩く。
「また学校帰りに寄らせてもらうね。その時に、一緒に勉強会しましょう」
「えぇ、勉強会するのぉ? 雅美はともかく、私は嫌よ」
春香の発言に対して、露骨に嫌な顔をする美里。本当にこの子は勉強が嫌いだ。
「駄目です。美里ちゃんだって、勉強しないと成績がわかりやすく下がるじゃない」
こと勉強に関しては、春香の態度は強気になる。普段はおろおろしているけれど、中学時代から成績優秀な優等生だから。それは高校生になっても同じ。
おかげで、私も助かっている。私のためにやってくれる勉強会、一番助かっているのは美里かもしれないけれど。
春香に説き伏せられて、「はい、わかりました」としょんぼりとした表情で元気なく応じた美里がちょっと可愛いと思ったのは内緒。