今日は、私にとってかなり重大な一日になる。
「雅美! 美里ちゃんと春香ちゃん、もう来てるわよ」
「わかってるって!」
久々に制服を身に纏うから、女子用の小さなネクタイが上手く締めることが出来ない。
早く降りてくるように急かす母さんの声に焦って手元が狂ってしまう。
遅れて、鞄を持って階段を降りると、玄関には制服の上にコートを着込んだ親友二人の姿があった。
二人は、今日は特に冷えるからコートを着て行った方がいいと言ってくれたので、私もダッフルコートを着て行くことにした。
今日まで二ヶ月かかったけど、もうひとりの私と出会うまでの私に比べれば大きく成長したと思う。
今では、外出することが出来る日が増えてきた。笑い声に反応してしまうのは相変わらずだけど、引きこもりではなく、出不精になったと美里と春香に褒められた。
褒めてくれたけど、そうなれたのは二人のおかげだった。
今までのように、頻繁に私の様子を見に来てくれて、日によっては負担にならない程度の外出に付き合ってくれた。
私も億劫になる時は、無理せず外出を控えつつ、行けそうな時は思い切って二人に助け舟を出してもらって少しずつ、それでも、確実に引きこもりから脱却し始めた。
そして、今日が大きな区切りとなるだろう。
だって、今日は私が久々に登校する日なのだから。
本当は、もうひとりの私がしたかった一番の願望は、美里と春香と一緒に学校に行くことだったんじゃないかと思ってる。
もう会うことはないだろうけど、彼女に胸を張って言いたいことがある。
それを言いたい時が何度もあったけど、本当に言えるのは、今日しかないと思っている。もちろん、彼女だけじゃなくて美里と春香にも伝えたい言葉でもあった。
だから、今日こそ、高らかに宣言するよ。
私は、少しずつ成長しているよ。だから、心配しないでね。これからもよろしく。
玄関でそう言うと、私たちは学校に向かって歩き始めた。