「え? 私を外で見たぁ?」
「うん」
春香は私の質問に、即答で肯定した。
そんなバカな。私は今日、一歩も外に出ていない。引きこもりなんだから、そんなこと春香もわかっているはずなのに……
出たいと思うこともあるけど、どうしても出たくないからこそ私は部屋に籠城しているのだ。
ということは、春香は私と別の人を勘違いしただけではないだろうか? うん、そうだ、そうに違いない。
「気のせいだったんじゃない? 実際、私は自宅にいるわけだしさ」
「うん、そうだよね。変なことを聞いてごめんね」
「気にしないで。じゃあ、またあとで」
そう告げて、通話を切った途端、別の着信が鳴ったので、私はびっくりしてケータイを落としそうになって、慌ててキャッチした。今度は美里からだ。
「雅美? あんた、やっぱり外に出てるでしょ?」
開口一番、美里までそんなことを言うか。
「いや、春香にも言ったけど、私は自分の部屋にいるわよ」
「だったら、そこのコンビニで立ち読みしているあんたは誰なのよ?」
どうやら、学校の近くにあるコンビニのことを言っているらしい。それに、二人は一緒にいるようだ。
でも、私は外にいないんだから、こう言い返した。
「じゃあ、部屋にいてケータイで話している私は誰なのよ? コンビニで立ち読みしている私とやらは、ケータイを使ってるわけ?」
しばらく沈黙が続いて、美里は唸るような声を発した。
「確かに、ケータイは持ってなさそうね。でも、どう見てもあんたにしか見えないんだけど……」
ほら、やっぱり人違いじゃない。って、ちょっと待て。どう見ても私にしか見えない?
「仮にその子が私にそっくりだとしたら、じゃあ何者なの?」
じゃあ何者なの? なんて、聞くのも他人事過ぎて、我ながら無関心ぶりが強いな。
深く考えたようには思えないほど早い返事を美里はあっさりと口にした。
「もしかして、ドッペルゲンガーってやつじゃない?」と……
「ドッペルゲンガー?」
「ほら、そっくりなもう一人の自分ってやつよ」
そんなバカなことあるわけないじゃん。
美里ってば、何かと超常現象やオカルトに結び付けたがる癖があるわね。
「ってことは、昼間から私の幽霊を見かけたってわけ?」
鼻で笑う私に対して、美里は少し慌てた様子の口調になっていた。
「だって、他人のそら似とは思えないほどに雅美にそっくりなのよ。違いがあれば、メガネをかけてないくらいよ」
顔の輪郭が違うとか、体格が違うとかじゃなくて、違うのは付属品かよ。
開いた口が塞がらないとはこういった時に使う慣用句なのか。
私が呆気に取られている間に、春香が替わって電話に出た。
『私たち、今からドッペルさんがいるコンビニに入ってチェックしてみるから。じゃあ、またあとで電話するね』
それだけ言うと、電話は切られてしまった。
ドッペルさんだなんて春香らしいかわいいネーミングセンスだ。
それにしても、普段控えめな春香が少し積極的な発言をしたので、少々驚いた。