外見を見たところ、瞳の色が蒼いことや肌の色白さから日本人ではないだろうと誰もが思った。
次に、研究員たちはその美少女に名指しされた恭治に視線を向けた。
「えっ? 僕?」
恭治も自分を人差し指で指すと、美少女がうなずきこつこつとハイヒールを鳴らしながら近づいてきた。
美少女は、戸惑っている恭治の顔を覗きこむようにまじまじと見つめる。
可愛らしい少女に見つめられるのは悪くないのだが見つめられ方が普通じゃないので、緊張感があって気分はそんなによくない。
「ふぅん。思ったより小柄じゃのう、お主」
かかとの低いヒールを履いているとはいえ、少女は元の身長が160センチ前後あるため、その分身長が上乗せされて恭治と背丈が同じくらいになっている。それよりも、この子の間違った日本語は一体なんだ?
明らかに年下の少女が物怖じすることなく、遠慮することなく、言いたいことをずけずけと言い募ってくるので、恭治も怯みながら尋ねた。
「あのー、ところであなたはどなたなのですか?」
すると、少女はきょとんとした表情に顔つきが切り替わった。
「真山から聞いておらぬか? マリー・デュラスと名乗ればわかるはずじゃ!」
それは数日前に真山からの連絡であったフランス本部の元所長のルイーズの孫という少女の名前だった。
マリーのフルネームを聞いた途端、第六班のメンバーが小さくざわめいた。あの創始者の孫だということを皆が知っているからだ。
「おはつにお目もじする」マリーはにっこりと笑った。
皆がざわめく様子をマリー本人は気にしなかった。そういった状況に遭うことがよくあり、慣れているのだろう。
マリーの名前を思い出した恭治も納得した。一方で、和沙は何か腑に落ちないという感情を裏で感じている様なので、表に出させた。
真山の話だと、マリーは人格転移の実験を知っているようだったので、和沙を堂々と表に出させたのだが……
「マリーさんでしたね? どうやって、この第六班研究室に入ってきたんですか? ここに来るためには、特殊研究棟入口の指紋照合、声紋照合、網膜照合、指による静脈照合の全てをクリアしないといけないんですよ?」
確かに妙なことではあった。ここはマリーが所属しているフランス本部ではない。はるか遠くの日本支部の研究所だ。創始者であるルイーズ元所長であれば、本部はもちろん、各国にある支部にも入室許可のための情報登録がされているが、いくら優秀な研究員である孫とはいっても、日本支部に情報登録がされているとは考えにくい。
だから、和沙は疑問に抱いたことをストレートに聞いた。
やや険のある口調となっている和沙だったが、それに対してマリーはおどけたように答えた。
「それは秘密なのだ。ただし、ここのセキュリティには穴があるとでも言っておこうかの。穴があれば、すり抜ける隙間もあるということじゃ。それにしても、人格が入れ替わると声色まで変わってしまうとはな。ということは、お主が人格を転移されたマドモアゼル和沙じゃな?」
「ええ、そうですよ」
仏頂面でマリーの質問に答える。色々と間違った日本語を使う上、自由奔放を飛び越えて、自分勝手な行動をしているマリーに和沙は呆れきっており、お守り役のはずの真山が何もしないことに若干の憤りを感じていた。
(何で真山さんは何もしないのよ!)
そもそも、和沙にとって初対面の人間と接するのはあまり好きではない。どちらかというと人見知りする性格なので、緊張してしまう。
特に、マリーのように初対面でも一気に懐に飛び込んでくるような接し方をする人はもっとも苦手だった。