初対面から疑問に抱くことがあったからこそ、半ば物怖じすることなく言えたが、緊張している気持ちは変わりなく、険のある口調にどうしてもなってしまう。
(初対面の女の子に、こんなキツい口調な私って嫌な女かなぁ……)
頭ではわかっていても、上手く相手をあしらうことが出来ない自分を心の中で反省する。
和沙の言葉を聞いた恭治が表に出るなり、大笑いするのを堪えるような形で小さく笑った。
「くっくっく。マリーさん、あまり気にしないであげてください。和沙は、人見知りするタイプの人間ですから」
(恭治、余計なことを言わないの!)
恭治には聞こえないが、そんなことを和沙が裏で叫んでいることが容易に推測することが出来た。
反論するために表に出てくるかと思ったが、マリーを前に喋るのはためらうのか、和沙は表に出てくることなく、裏で不服そうに気分を沈めている様子だった。
「いや、構わぬぞ。興味深い事象を目の当たりにしておるから感心しておるのだ」
右手を口元に添えてマリーも笑っていた。どうやら、全く気にしていないようだった。
ふと、マリーの右手に目を向けると、季節からして不自然な手袋していることに恭治は気が付いた。
「この時期に、手袋って暑苦しくないですか?」
「おー、これか。昔、大やけどしたのじゃ。やけどのあとが見苦しくてな、隠しておるのじゃ」
「そうでしたか。すみません」
嫌なことを思い出させただろうと感じて、反射的に恭治も申し訳ないという気持ちが漏れた。
マリーは気にしていない様子だが、恭治は気まずい気分になってしまった。
助けを求めるように、班のメンバーに目線を向けるが、皆が皆、視線を合わせようとしないか、もしくは「自分で何とかしろ」とばかりに睨み返された。
気まずさのあまりに黙り込んだ恭治を不思議そうに首を傾げながら見つめるマリー。
妙な空気が漂うこと数秒。恭治にとっては数分のように感じられた。
それを見かねた真山は大きくため息をつくと、席を立ちマリーの前に立った。
「マリー様、勝手に歩き回らないでくださいよ。しかも、もう第六班の部屋に来るし……あとで、ご案内して烏丸たちも紹介するって言ったじゃないですか!」
恭治に愚痴っていたとおり、来日したマリーのお守りをさせられる様子だ。
「真山の出迎えが遅いからではないか。じゃから、拙者自ら、恭治たちに挨拶を済ませにやってきたところぞ」
悪びれることなく満面の笑顔を見せながら胸を張ったマリー。
初対面から年下の女の子に名前を呼び捨てにされるのはいい気分ではないが、恭治のことなど気にもせず、マリーは言っているのだろう。それともこれがフランス流なのだろうか? 一応、ムッシュとかマドモアゼルとか付けてたし……
そんなマリーを見て、真山と恭治、和沙は大きくため息を吐いてうなだれた。