研究作業を停止されていた第六班だったが、真山がマリーを連れ出したことで、作業を再開することが出来た。ただし、恭治と和沙を除いて。
マリーが恭治たち、『一つの器』を一緒に連れて行かないとテコでも動かないと言い張ったので、やむを得ず恭治たちは研究室から連れ出されたのだった。
和沙は、自分たちが抜けることで研究に支障がきたすのではないかと心配したが、新米であり現在研究対象の実験体である恭治と和沙が抜けたところで集まったデータを解析するのに影響はないと真山は判断し、第六班にはいつも通りに研究を続けるよう言うと、マリーは機嫌良く『一つの器』を連れ出した。
しかし、生真面目な和沙は、自分と恭治だけが楽をしているような気がして、立つ瀬がないなと少し考えていた。
一方、恭治は、「もしかして、マリーさんのお守りとして厄介払いか?」と思いつつも自由に行動出来るのなら満喫してしまおうと考えていた。
マリーのために用意された客室の椅子にマリーが真山と隣り合わせで座り、マリーと面と向かって正面に『一つの器』が椅子に座った。
和沙が入れたお茶をすすりながら、マリーは満足そうに微笑んだ。
「うむ、やはり日本茶は良いのぉ。マドモアゼル和沙の茶の淹れ方も上出来であった。褒めてつかわす。それにフランスは紅茶ばかりでつまらんのじゃ」
「そう仰いますけど、ハーブティーもたくさんあるでしょう?」
真山が口をはさむと、マリーは肩をすくめながら首を横に振って否定した。
「真山はわかっておらぬ! ハーブティーなんぞ飛び越えて日本のお茶がそれだけ美味だと申しておるのじゃ」
マリーの言葉を聞きながら、ただ単に、ハーブティーのことを失念していただけなんじゃないかと、恭治も和沙も心の中でつぶやいた。
しかし、フォローは入れた方がいいかなと和沙は考えて表に出てきた。
「マリーさんって本当に日本のことが好きなんですね。和菓子もお好きですか?」
「もちろんじゃ。中でも一番は、もなかなのだ」
目を輝かせながら、嬉々として流暢に日本語を話すマリーを見ていると、マリーがフランス人であるということが嘘のように思えてくる。多少、いや、ずいぶんとへんてこな日本語ではあるが。
「マリーさんって日本語がお上手ですね」
和沙が褒めるとマリーは目を輝かせた。
「そうであろう? 拙者は日本のテレビを見て日本語を学んだのじゃ」
「どんなテレビですか?」
「暴れ……というのが特におもしろかったのぉ」
マリーが胸を張る。一方で真山と恭治、和沙は心中でため息をついた。
やはりというか、マリーの妙な日本語のルーツがわかったためだった。