マリーに年齢を聞くと恭治と和沙が思っていた通り十五歳だと答えた。しかし、十五歳にしてはざっくばらんな性格をしている。思春期の女の子ってこんなものなのか?
さらに、来日するのは今回が初めてらしいと数日前の真山との電話で聞いていた。わざわざ日本からフランスにお茶や和菓子を取り寄せていたのだろうか?
お金持ちのお嬢様は贅沢でいいなぁ……と、表に出ている和沙は羨ましそうに心の中でつぶやいた。
「ときに、真山。拙者は日本の街を歩き回ることが出来るのであろうな? 拙者は侍とやらを実際にこの目で拝見したくてたまらん」
その話題が振られた途端に、真山はニヤリと微笑んで和沙を見た。和沙は嫌な予感がした。裏にいる恭治も同じように不安な感情を浮かばせている。
真山がこんな微笑みを向ける時は、だいたいが和沙や恭治にとって不都合であることが多い。
ただし、今回に限っては恭治が特に不都合であるようだった。
「マリー様、申し訳ないのですが、私はしばらく予定が重なっているのでご同行出来ないのです。その代わりといっては何ですが、目の前にいる綾辻に案内をさせます」
「はぁ?」
真山の言葉を聞いた途端、恭治が表に出てきて、素っ頓狂な声をあげた。
「僕がマリーさんを案内するってことですか?」
真山は恭治の問いに真顔で答えた。
「いや、烏丸に案内させるとは言っていない。俺は綾辻に案内するように言ったんだ」
「真山さん、どういうことですか」
和沙が表に出てきて改めて問いかける。
「言葉の通りだよ。マリー様をご案内される際は、綾辻が表に出て行動するように」
どうやら本気で言っていて、なおかつ、実験の観察を兼ねているらしい。和沙が表に出ている時間を延ばしてみることでどういった変化があるかを観察すると真山は言っている。
実験かもしれないが、真山は面倒事を恭治たちに押し付けていることは否めない。それとも、先日の電話を切り上げたことに対する仕返しか?
「実験とはいえ、大勢で移動するわけにもいかないし、定期的に研究所に戻ってもらっては手間がかかる。なので、綾辻、こいつを耳に着けて行動してくれないか」
真山は握り締めた右手を差し出すと、和沙の目の前で右手を開いた。
すると、右手の中には小さな機器があった。見た目としては耳かけ型のイヤホンの片方だけといったものだ。しかし、違うところは、通常のイヤホンにはない突起物がついていた。
真山の説明によると、それはイヤホンのように耳にかけるところは同じだが、突起物を耳の中に入れるという。
その突起物が特殊な波長を発生させて、耳の内部から脳内まで波長を送り込んで脳波の変化を把握することが出来るらしい。
そして、そのデータはそのまま研究所にいる第六班のメンバーたちに送信するという。
「ただし、携帯電話のように電波が届かないところにいるとデータ送信が出来なくなるから、極力地下には行かないように。その件は、マリー様もご了承ください」
そう要望されたマリーは、実験に興味があるので、検証の一環として行う行為に対して口を挟んでまでわがままを言うつもりはないと承諾した。
「それに、拙者もマドモアゼル和沙と一緒に街中を歩くのも悪くないと思っていたのじゃ」
しかし、裏にいる恭治は嫌な予感がした。
いくら表に出ていて声色が和沙だとしても見た目は恭治のままだ。そんな状態では、女の子同士のお買いものとは言えないだろう。
恭治が裏で怪しんでいるとマリーはとんでもないことを言い出した。
「そうじゃ、マドモアゼル和沙。せっかくじゃから恭治の身体に女装させてしまおう。そうすれば、共に女物のお買い物も出来るのではないか? 久しく、行っておらぬじゃろう?」
「ちょっと待った! それは出来ません!」
マリーの提案を聞いた途端に恭治は即表に出てきて叫んだ。
マリーは「それの一体何が悪い?」と言いたそうに首を傾げている。
しかも、マリーの提案に和沙は同調するという暴挙に出た。
「面白そうですね~。恭治はそんなに背は高くないしぃ、髭もすね毛も薄い方ですしね。私もしばらく女らしい格好をしてないですしね~~。お買い物したいわ~~」
恭治は、スカートを履かせたりするのは気兼ねすると言った和沙の言葉はどこへ行ったと嘆きたかった。