プロジェクト・メメントモリ 前編 - 22/23

風呂に入り(和沙は男性の裸体を見るのは恥ずかしいと毎回裏に逃げる)、入浴中は外していた端末を改めて耳に付けて寝間着に着替えると、テレビを点けてぼうっと画面を見つめる。

恭治はショッピングの途中での和沙とマリーの会話について考えていた。

マリーは祖母であるルイーズ元所長が亡くなってもなお、この実験を見届けると言う。

それだけルイーズ元所長を慕っていたのだろう。

そして、恭治と和沙はどんな形であれ、その実験に関与している。

今は研究員として、どんな結果をもたらすのかを知るために行っている。それに、倫理的に問題があるなどと、訴えるのはナンセンスだという結論に達した。

恭治たちはその倫理的問題を無視した実験をすることが役割である研究員なのだから。

和沙に至っては、実験の過程で人権など持っていないに等しい存在となっている。現に今、和沙の肉体は脳死状態だ。

二人ともいつ切り捨てられてもしょうがない環境にいる。外に訴えたところで、外部に出る前になかったことにされるだけだ。

その分、相応の報酬をもらっているわけだが。

この疑問には、答える権利が自分にはないのかもしれないと恭治は思った。

また、それ以外に気になることがある。

マリーのことだ。

初対面の時、和沙も言っていたが、フランス本部に所属しているマリーが、日本支部のセキュリティをすり抜けて第六班の研究室に入ってきたことが全く腑に落ちない。

これも和沙が直接マリーに言ったことだったが、指紋や声紋などの照合をクリアしたことも解せない。

フランス本部では特別な存在でも、日本支部では一研究員でしかないはずだ。

なのに、人格転移に関わろうとしたり、計画そのものを恭治たち以上に熟知している様子が見え隠れする。十五歳だと言っていたが、年相応の人物とは思えないのは恭治だけだろうか?

「あの子、何者なんだろう?」

ふと、言葉を口から漏らした恭治に和沙が表に出てきて聞き直した。

「あの子って、マリーさんのこと?」

恭治は和沙が質問を振ってきたことで、心の中の疑問が口から出ていたことに気が付いた。

取り繕う必要もないので、自分が思っていることを和沙に話した。

和沙も裏にいて考えをまとめているようで、少し間を置いてきた。それから、和沙が思っていることを話してくれた。

和沙もマリーについて違和感があると言う。変な日本語でごまかされそうになるが、ショッピングの途中、時折十五歳とは思えない鋭い眼差しをすることがあったらしい。

瞳の奥に、何かを潜めているように感じる。

十五歳の研究員ということ自体が和沙にとっても異例だと思う。それほどの天才なのだろうけれど……

また、来日するにしてもフランス本部から直々で真山にマリーの世話をするようにお達しが来るというのも、一研究員としては待遇が良すぎはしないだろうか?

ルイーズ元所長の孫だから、プロジェクト・メメントモリを直接見てみたい? それでも、和沙も恭治も素直に納得できない。

もっとも、下っ端の自分たちがそんなことを考えたところで、どうなるということでもないのだが……

「まぁ、いい。マリーさんのことは置いて、そろそろ寝よう」

「うん、おやすみなさい」

実際は独り言だが、一応形だけでも眠りに就く前にそれだけは交わしておく。

恭治はたいして観ることのなかったテレビのリモコンを手に取ると電源を落とし、部屋の電灯も消してベッドに潜り込んだ。