意識が途切れた二人を確認すると、第六班の研究員たちは眠っている恭治たちとは別の意味合いで緊張し始めた。
真山が声を張る。
「よし、実験を開始する。烏丸と綾辻の脳波に接触を試みろ」
指示を受けた研究員は、和沙の頭部から接続されている電子端末を操作する。
その画面には、和沙の脳波が表示される。パターンを確認し真山に報告する。
「電気ショックで刺激を与えたところ、綾辻の脳波を確認しました。いつでも転移可能です」
真山はうなずくと、別の研究員に問いかけた。
「烏丸の方はどうだ?」
「同じく烏丸の脳波を確認しました。こちらも受け入れる準備が完了しました」
実験の準備が確認されると、皆が固唾を呑んで真山の顔を見つめる。
誰も行ったことのない未知の領域に挑む実験。真山も硬い表情をする。
あとは、真山の承諾の一言だけで実験は開始される。
だが、ここまで来たのなら退くことは出来ない。
たとえどんな結果になろうと実験を行うと決めたのだから。
注目を集めている自分にも言い聞かせるように、真山は宣言した。
「人格転移、開始!」
宣言と共に、それぞれ恭治と和沙の脳波を確認する電子端末を操作しプログラムを入力する。
そして、エンターキーが押される。
和沙の頭部に覆い被されているネットに電流が流れる。電流の影響か和沙の全身が痙攣を引き起こしたかのように小刻みに震える。しかし、腰のベルトのおかげでベッドから投げ出されるようなことはなかった。
そんな和沙の様子を横目に電子端末の画面を食い入るように研究員が覗き込む。
「綾辻の脳波が烏丸の脳内へと移行します。転移が始まりました」
和沙の身体の痙攣が収束し始めると、二人のネットの電極パッドが接続されている電子機器に反応を示すランプの点滅が続く。と、恭治の身体が同じように痙攣を引き起こす。その様子を見守りつつ研究員たちは電子端末の画面を注視する。
「すごい。綾辻の脳波パターンが烏丸の脳内でも再現されるかのように活動している。まだ目が覚めていないから一次視覚野の反応は鈍いが、前頭葉や海馬の反応が強くなっている」
驚嘆するようにつぶやく研究員たちだが、真山はあくまでも冷静に指示する。
「烏丸が目覚めるまで実験は終わらないぞ。気を抜くな」
一方で和沙の脳波を表示している端末の画面に反応がなくなったことが確認された。
「綾辻の大脳と脳幹の機能低下を確認。ほとんど脳死状態に近いです」
「ということは、綾辻の人格は烏丸の脳に転移が完了したということか」
部下の報告を耳にして独りごちた真山は、注意深く恭治の脳波を確認出来る端末を見やる。
脳が休眠状態になっているノンレム睡眠状態に近い恭治の脳が少しずつではあるが活発化しようとしている。それは和沙の脳とは正反対の状態だった。
抑制剤を投与しているというのに、それすらも効果がないかのように活発に反応している。
睡眠状態ではなく、覚醒状態へと移行する。