端末を確認していた面々が、ベッドで眠っている恭治に目線を向ける。
すると、先ほどまで意識がなかった恭治のまぶたがゆっくりと開かれていく。意識を取り戻したようだ。
覚醒した恭治は、何度も瞬きを繰り返したり、目を何度もこすったりしている。
よくわからない挙動をしている恭治に向かって、研究員の一人が尋ねる。
「烏丸、どうした?」
すると、恭治は男性とは思えないくらい甲高い声で答えた。
「どうしたもなにも。何でこんなに視界がぼやけてるのよ。全然見えないじゃない」
その声は正に和沙の声色と酷似していた。
どうやら、和沙の声を出す恭治は、自分の視力が低いことがよくわからず、もやがかかっているかのように感じていたようだ。
「もしかして、視力が低いということがわからないのか……ということは、今のお前は綾辻なのか?」
その真山の問いに、恭治は見えない目を細めて真山をよく見ながらやはり和沙の声色で回答した。
「ええ、そうです。今のお前? え? すると……」
恭治はパタパタと手で胸の辺りを探った。
「や~~ん、胸がない~~! するとこれは恭治の身体なの~~?」
どうやら、実験の第三段階までは概ね達成することが出来たようだ。
烏丸恭治と綾辻和沙を対象とした実験、プロジェクト・メメントモリの概要はこういうことだった。
- 綾辻和沙の脳内から人格を形成している脳波を獲得する
- その脳波をもう一人の実験体である烏丸恭治の脳内へと転移させる
- 烏丸恭治の脳内でも綾辻和沙と呼べる人格の存在を確認する
- 経過観察をしたのち、烏丸恭治の脳内にある綾辻和沙の人格を再び綾辻和沙の脳へ再転移させる
この実験の目的は、「長期的な外科手術等で肉体をコールドスリープして治療する必要、また麻酔を使えない激痛を伴う医療行為が必要な場合の際に、患者の人格を一時的に納める装置に転移させて苦痛や患者の不都合を感じさせずに治療を行えるようにする」というものだった。
しかし、現状では人格を納める装置の開発のめどが立たず、他者の脳内に転移させることでしか人格の移動ができなかった。そのため人体実験を極秘裏に研究する必要があった。そこで特殊研究第六班によるプロジェクト・メメントモリが立ち上げられたのだ。