マリーの個室から、自分の部屋へと戻ってきた真山は、すぐにパソコンを起動し現在まで送信されている恭治と和沙の脳波データをチェックする。
何か、転移前と転移後の現在での相違点がわずかでもないか目敏く調べる。
恭治と和沙が覚醒時に、入れ替わる際の脳波を注意深くチェックするが、さほど変化があるようには見えなかった。
そういえば、転移が成功した直後に綾辻が言っていた第四の快楽と呼べる感覚があると言っていたな。
綾辻の報告によると、睡眠から覚醒した時に感じる場合があると。
そこに何かヒントがないだろうかと、恭治の就寝から起床までの脳波のデータを改めて洗い出してみる。
ある日の睡眠時の脳波を調べてみることにした。
その日の起床時に、和沙は第四の快楽を感じたとの報告を受けていたのだが、そこに糸口がないか調べる。
何時間もチェックを繰り返したことでわかったことがあった。
基本的には恭治の脳波が流れ続けるが、起床する一時間半前からほぼ確実に和沙が表に出てきて脳波を発していることがわかった。
それが第四の快楽を感じる要因かと思っていたが、それとは別に違和感を覚えるデータがあった。
和沙の脳波が流れ続けている最中に、隙間を縫うように妨害するようなノイズが時折起こっていたのだ。
「何だ、このノイズは?」
そのノイズが気になった真山は、和沙が覚醒時に第四の快楽を感じたという報告を受けた日の朝の脳波を全て調べることにした。
すると、和沙が第四の快楽を感じた日の全ての脳波の間に、ノイズのような別の脳波が発生していることが判明した。
また、細かく発生していて把握しづらかったノイズのような脳波だが、断片的に恭治の脳波に酷似していることもわかった。
そして、そのノイズの量が日に日に増しているのだ。
まるで、和沙の脳波と取って変わるかのように、ノイズの脳波が増えていく。
「綾辻の脳波が綾辻の物ではなくなっている? 綾辻の脳波をとらえたというのは、脳波の一部でしかなかったということか……だから、再転移が出来なかったのか?」
和沙の脳波全体を把握していなかったのだから失敗して当然だったのかもしれない。
ノイズの量が日に日に増していて、さらに恭治の脳波に酷似している。
その先に、懸念すべきことがあると真山は気づいた。
それは、和沙という存在そのものに関する重要なことだ。
「綾辻が烏丸に人格統合されつつあるというのか?」
恭治と和沙、別々の人格であり、二つの個人だった存在に少しずつ変化が起こり始めている。
自分が提唱したプロジェクト・メメントモリにここまで不確定要素であり弊害が存在するとは思いもしなかった。
このままでは、実験が失敗する可能性が高くなってきた。それどころか、綾辻和沙という存在自体が消え去ってしまうリスクが生じた。
「まずいな。どうにかして、早いところ綾辻の再転移を成功させないといけないな」