五月二十九日(実験四十日目)
研究所特殊棟で泊まり込むようになって二週間近く経ったが、和沙を再転移させることが一度もなく、恭治と和沙は無為な時間を過ごしている気分だった。
いや、気分ではなく実際に無為な時間を過ごしているのだろう。
何度か、恭治は再転移を試みることを訴えたが、真山はその訴えを受け入れることはなかった。
すでに第六班には真山から再転移のリスクについて報告されており、再転移実験の許可が下りるわけがなかった。
しかしリスクについての話は恭治と和沙には伝えられていない。
自分たちの知らないところで何かが起きていることに不信感を抱くこともあったが、それでも特殊研究第六班のメンバーを信じるしかなかった。
「まぁ、実験体である僕たちが出来ることなんて何もないんだろうね。和沙はどう思う?」
「……」
「和沙?」
「え? 何?」
恭治の問いかけに対する和沙の反応が鈍かったので、恭治が改めて話しかけた。
「いや、だからね。僕たちが出来ることなんてないんだろうって。聞いてなかった?」
「うん、ごめん。何だか、ぼうっとしてて」
「最近、ぼうっとすることが増えたよね」
和沙本人が自覚してなかったが、恭治は印象的に覚えていたようだった。
最近、和沙が積極的に表に出てくることが少なくなり、裏にいる時でも恭治の呼び掛けに対して返答することなく、無反応であることが増えてきたのだ。
その一方、朝の覚醒時に起きるという第四の快楽の発生回数が増えてきたと和沙が語っていた。
一応、そういった変化を真山に報告するが、それでも再転移に影響を及ぼしているかはっきりとした回答が返ってこない。
「第六班も行き詰っているんだろうなぁ……」
気が抜けた様子の恭治の言葉に和沙も同じ心持ちだったようだった。
気を紛らわすように、和沙が口ずさんだ。それは詩だった。