六月二十日(実験六十二日目)
特殊研究第六班全体も完全に行き詰っていた。
プロジェクト・メメントモリを提唱した真山でさえ、案件を持て余しているのだからやむを得ないのかもしれないが、実験体である恭治と和沙のことを考えると、どうにもならない歯がゆさを第六班の皆が感じている。
だが一方で、自分が実験体にならなくて良かったと安堵しているところがあるのも否めない。
恭治の立場ならともかく、和沙のように自身の肉体から切り離されて他者の脳に転移された上、元の肉体へ戻れないなど、損な役回りを演じさせられるのは誰だって願い下げだろう。
結局和沙には同情するが、自分でなくて良かったと思う者が多いということだ。
そういう気持ちを班のメンバーが抱いていること、それを隠していることに気付かないほど恭治も和沙も鈍感ではなかった。
恭治たちが実験体ではなかったら、同じように気持ちを抱くと感じているので、失望や幻滅といった気持ちになることはなかった。
どうにかして恭治と和沙の現状を好転させようとしてくれようとしている気持ちは行動の端々から感じられてくるので、むしろ期待に近い思いを抱いている。
それとは対照的に、恭治はルイーズのことを一切信用できないと烙印を押した。
本人は私利私欲ではないというが、その発言そのものが私利私欲の塊が語る言い訳にしか思えなかったからだ。
とはいえ自分だって、非合法な研究員であることは、善人ではないという証明であり、他者を悪だと断言する資格などないと自覚している。
それでも、和沙を巻き込んだことに対する自分への怒りが、スライドしてルイーズに対しての怒りへと変換されていた。それは八つ当たりに近い感情だとも理解している。しかし……
和沙は大事な同僚である以上に、大切な恋人なのだから。
そんなに人格転移実験をしたかったのなら、死にかけていたルイーズとしての肉体からクローン体であるマリー体へ人格を転移すればよかったのだ。
そうすれば、恭治はともかく、和沙をこんなに苦しませることもなかっただろうに。
半ば投げやりになって苛立つ恭治だったが、今更そんな風に言っても仕方がないということも自覚している。
問題は、あくまでも和沙を元の身体に戻すことにある。
その恭治が抱いた苛立ちの感情を裏にいる和沙も受け止めたようで、表に出てきて心配そうに尋ねてきた。
「恭治、どうしたの? あなたが苛立つなんて珍しいじゃない?」
感情を指摘された恭治は少し動揺したが、思考を読まれることがない多重状態であることにほっとした。
もし、思考が和沙に読まれていたら、恭治が自分のせいで苦しんでいることに心を痛めてしまうだろう。
それは避けたいと感じている恭治には好都合だった。
「いや、ちょっとね。気にしないでいてくれるとありがたいな」
出来る限り穏やかな口調を維持しつつ、和沙に弁明する。常に共にあるため、感情面では隠せないだろうが、言うだけ言うしかない。
「そう? それならいいんだけど……」
和沙は完全に納得したわけではないが、恭治の言葉を飲み込んで引き下がった。