五月十五日(実験二十六日目)
和沙の再転移失敗もあり、恭治たちはしばらく研究所の施設内で時を過ごすことになった。
和沙が表に出てマリーとショッピングをした時に耳に付けていた機器を改めて身に着けることで、施設内での行動はある程度自由になった。
しかし、耳に付けている機器で居場所はきっちりコンピューターに送信されており、妙な動きをするとバレバレなので監禁状態といえるだろう。
また、睡眠時は頭部に転移の際に使っていた物と似ている端末に接続された電極ネットを被っておかなければならない。
第六班のメンバーは、和沙が感じるという第四の快楽に再転移失敗の要因があるのではないかと睨んでいるらしく、起床時の和沙の脳波を綿密に測ることにしたのだ。
この睡眠時以外は被る必要はなく、耳の機器がネットの機能を補うようだ。
一般人ならストレスを感じる生活になるかもしれないが、恭治と和沙は研究員として何日も研究所から出ることのない生活をしたことがあり、さほどストレスを感じることがない。
とはいえ、ストレスを感じないだけで、退屈に思うことに変わりはなかった。
研究所では、必要最低限の設備しか用意されず、生活感というものが全く感じられない。テレビすらないのだ。
部屋にあるのは、ベッドと、テーブルとそれに備え付けられた小さな小物入れとゴミ箱程度で、あまりの簡素振りに呆れたほどだった。
まぁ、病院ではないのだから実験体に配慮しないのは仕方ないことだ。
しかし、さすがに退屈なので、研究所に留まることになる前に、恭治と和沙の家を訪れて小説を持ってきた。それだけで生活感があるかと問われると疑問だったが、二人はわずかながら見慣れた持ち物のコーナーが作れたと満足した。