プロジェクト・メメントモリ 中編 - 9/25

和沙は恭治の行動を黙認していたが、ここに至って和沙がその真意を知りたいと思うのは当然だった。

その問いに対して、恭治ははっきりとした口調で答えた。

「和沙は聞いたことがないかな? 数年前にフランス本部でクローニング実験が行われたっていう情報を。今までのクローン体よりも元の肉体を忠実に再現することが可能となった技術らしい」

「ええ、聞いたことがあるわ。でも、そのクローン体はすぐに冷凍保存されて、実験は凍結されたって話じゃなかった?」

そこが納得いかないところだ。数年前にクローニング実験を行われたとしても、そのクローン体の実年齢は十歳にも満たないはずだった。

恭治はマリーの肉体がルイーズのクローン体だと言う。しかし、マリーの肉体は本人が名乗った年齢である十五歳前後であることは間違いない。それでは、肉体年齢と実験から経過した年月のつじつまが合わない。

「でも、マリーさんの肉体年齢と合致しないわ」

「これも聞きかじった情報だけど、強制的に肉体を加齢させる薬品がアメリカ支部で開発されたと耳にしたことがあるんだ」

「それで、マリーさんがルイーズ元所長のクローン体だとしてどうだっていうの?」

「マリーさんがクローン体だからこそ、僕たちの人格転移実験に興味があるんじゃないかって思うんだ」

アンジェリーク医療研究所の技術をもってしても、未だにクローニング技術は確立していない。確かに、生体認証をクリアできるほどのクローン体という意味合いでは、精密な技術であるが、細胞分裂の限界値を示すことになるテロメアが生まれつき短いのは、今までのクローニング技術と同様であり、それを克服出来ていないためクローン体は寿命が短く設定されている。

だから、フランス本部で行われたクローニング実験も失敗に終わりすぐにクローン体は冷凍保存され、実験そのものも凍結されたと聞く。

恭治の推測は、ルイーズはマリーというクローン体を創りあげると、アメリカ支部の技術を用いて十五歳前後までマリーの肉体を急成長させて、その肉体にルイーズ本人の脳を移植させたというものだ。

「いきなり、零歳からスタートするよりも、少なくとも加齢した状態から肉体をやり直せる方がいいと思うしね。もっとも、加齢自体にリスクがあるから危ない行為でもあるけどね。それで一定年齢に達した肉体に脳移植を行ったと僕は思っている」

しかし、クローン体はあくまでも欠陥品でしかなく、クローン体で生き続けることが出来る時間は短いものなのだろう。

それに脳自体はすでに老齢を達したルイーズのものであるため、クローン体では限界がある。

ただでさえ、マリーの肉体を創るために利用したルイーズはかなりの高齢だったはずだ。

いくらマリーの肉体が外見上、年齢が若く見えようとも高齢のルイーズの体細胞を利用しているのだ。

マリーの肉体は創られた時点から年老いていることになる。

それどころか、たとえ、別のクローン体を創ったとしても、今度は移植を続ける脳が欠陥品となってしまう。

脳とて、年を取る。脳死するリスクが増えるし、脳梗塞やくも膜下出血などの脳病を患う可能性も増えてくる。脳が衰えていくことも防ぐことは出来ない。

そこに真山が提唱した人格転移実験だ。

人格転移実験が確立すれば、死に近づいていく脳を破棄して、健康体である人物の脳内に転移すれば、脳死のリスクを回避出来る。

和沙はそこまでの説明で納得した。