「あれ以来、ここに来ても、何も起きないのよね」
初めて義雪さんが現れたニクスモール一階の通路の壁。その前に来ても、相変わらず既視感であるモノクロの風景だ。
あの出来事が今のところ、最初で最後の未知だった。
恐い思いもしたけれど、義雪さんに出会えたというのはありがたい経験だった。
ついついここに来てしまう自分がいることを自覚している。
そして、私がここに来る時は、落ち込んだ時だ。
さっき、友人に一刀両断されて凹んだのでここに来た。
既視感はあっても、初めてすることは初めてに変わりはない。
私だって、落ち込む時は落ち込む。
ふと、義雪さんが別れ際に言っていた言葉が脳裏をよぎる。
『いいかい、葵。君が既視感に囚われているのは何か理由があるはずだ。何か意味があるはずだよ。だから……』
「これからも、諦めずに生きてくれ……か。なんで義雪さんはあんなことを言ったんだろう……」
今でも、理由も意味も見出せず、何故、義雪さんがそう言ったのかもわからずじまいだ。
でも、義雪さんが残した言葉は忘れることはできず、気づけば半年が経っていた。
探し続けると誓った以上、私は諦めたりはしないが、それを見つけた時も、私は既視感を覚えてしまうのだろうか?
それは嫌だなぁ……
そんなことを壁に向かって呟いていたら、周囲の視線が気になり始めた。
恥ずかしいし、そろそろ帰ろうかな……今日も会えなかったなぁ。
そんなことを思いながら、壁から離れようとしたら、声をかけられた。
「そこの壁に語り掛けてた変なお姉さ~ん、ちょっといい?」
は? ナンパか? にしても、失礼だろ。
と、半分腹を立てつつ、振り返った時、私は未知を感じた。