いつもなら早く食べ終えてしまう俺のはずなのに、楓が先に食べ終えるほどに食が進まなかった。
二人ともサンドイッチを食べ終えて、少し休憩のために間を置いていると言いづらそうに楓が切り出した。
「和義くん、夜になったら、いつもデートの締めくくりにしてた夜景を見る秘密の場所、行ってもいい?」
その言葉を耳にして、俺は怖気を感じた。
脳裏に秘密の場所と呼んでいる場所の映像が浮かび上がる。静止画のように、一枚一枚表示されていく。
その場所は真っ暗で明かりが無くて、古めかしい廃屋のような建物として俺は思い出した。
思い出深い場所のはずなのに、その光景を思い浮かべると……
その先まで思考が深入りしようとした瞬間、店の前を大きい騒音を鳴らしながら車が通り過ぎたことで、俺の意識は現実に戻ってきた。
「和義くん?」
楓が心配そうに上目使いで俺の顔色を窺う。きっと、真っ青な顔色をしているのだろう。
「いや、なんでもない。じゃあ、最後にそこに行ったらおしまいな」
すると、楓は寂しそうな顔つきになって、目を逸らした。
「そうだね。今日一日だけ、わがままを聞いてもらうって約束だもんね」
本当なら今すぐにでも帰りたい気分だ。でも、楓の顔を見ていると、そうやって突っぱねることが出来ない俺がいる。
どうして、俺は否定出来ないのか。脳裏に気味の悪い映像が浮かび上がったばかりなのに……
「暗くなるまでちょっと時間があるから、ちょっと歩いていかない?」
「ああ……いいよ」
それに俺の顔色が悪いのなら、気遣うようなことを言ってもらってもいい気がするんだが、楓は素振りさえ見せようとしない。
「じゃあ、行こっか」
楓は満足そうに笑顔を浮かばせて、俺の左腕に両腕を絡ませてきた。
時間が経つにつれて楓が大胆になっているように感じる。まるで、寄りを戻したがっているような……
でも、俺は悪い気分はしなかった。
秘密の場所は、海沿いの街並みを一望出来る山の中腹にあることは覚えていた。
山を登るといっても、標高が高いわけじゃなく、丘よりちょっと高いぐらいの感覚で登れる山だ。
山の草木の手入れもしっかりされていて、山道もちゃんと整備されている。
もっとも、夜のうちに山を登るのは、標高が高かろうと低くかろうと危険を伴う。
それでも、ゆっくりと山道を歩いて行くと、今までも俺たちは山を登っていたことを思い出してきた。