ジャメヴ - 6/10

「夏場になると、よく来てたよね」

 楓は俺の腕にしがみつくように腕を組んでいた。

「そうだったね。ここを見つけたのは楓だったっけ?」

「そうだよ~」

 そう、今向かってる秘密の場所は楓が見つけた。

 初めて連れて来られた時は、何があるのか最後の最後まで内緒だと一切教えてくれなかった。

ただただ、とっておきの場所だと彼女は自慢していた。

 完全に日が沈んで、空を見上げれば星が現れ始めたころ、俺は道の途中で足を止めた。

 立ち止まった場所から山道じゃない横道に入っていくと、秘密の場所にたどり着く。

すると、楓は組んでいた腕を解いて、俺の右手を引いて横道へと促す。

「やっぱり、何度も来たからここの場所は覚えてくれてたんだね」

 楓は嬉しそうにはしゃいで、俺を引っ張っていく。

 暗がりでも、狭い道でもないし月が闇夜を照らすから、歩く分には問題はなさそうだ。

 少しだけ背がある草花を踏みながら奥へ奥へと楓は歩いて行き、俺はそのあとを連れられていく。

 しばらく歩くと、開けた野原のような場所に行き着いた。

 そこは、木々がなくて海沿いの風景を一望出来る野原。正面を見据えれば夜景が、見上げれば夜空が見える。

 ここが秘密の場所だった。

 楓が言っていたように、俺が思い出したように、確かに海沿いの街の夜景がとても綺麗に輝いている。

 海風がわずかに野原に届くようで、佇んでいる俺たちの頬を撫でるようにすり抜けて行く。

「いつも来ても思うけど、やっぱりここから見る風景は絶景だね」

 野原の真ん中に立ち尽くして楓は髪を風で揺らしながら、ずっと夜景をずっと眺めている。

 俺は星空を見上げながら、ぼうっとしていた。

 互いが別々の絶景を眺めていることに気が付いた彼女は、少しふて腐れてた。

「何よ、一緒の光景を見てるのかと思ってたら、和義くんは空を見てるじゃない。

「でも、間違ってないだろ? ここから見る風景は絶景ってことは」

「そんな言葉遊びしないの」

 楓が肩で俺の肩をつついてきた。このやり取りも今まで何度もしてきたことだ。

 微風が吹くけど、湿気を帯びた風は蒸し暑さを煽っているようにも思える。

 暑さに居心地の悪さを感じている俺に彼女が顔を向けてきた。

「ちょっと暑いよね。また、あの建物の中で休もうか」

 楓が野原の奥側を指差す。

 その方向には、廃屋となっているコンクリート造りの建物が建っていた。

 指を差すので、その方向に目線が自然と移動した。途端に、全身から冷や汗がどっと吹き出るのが俺はわかった。

 何でだ? 初めて来たわけじゃないのに、初めて見ているような感覚になってしまうのは、どうしてだ? これがジャメヴ?

「和義くん、行こっ」

 俺とは対照的な明るい表情を浮かべて楓がもう一度俺の右手を引いて建物の方へと連れて行く。

 端から見れば、恋人同士が戯れているようにしか見えないだろう光景が、当事者の俺にとっては今、別の光景に見えた。でもお、楓に伝えたいという想いがそんな気持ちを吹き飛ばした。