コンクリートの建物の中に入ると、むき出しになった窓から月明かりが照らされている。
やはり廃屋のようで、中は荒れ放題になっている。壁にはスプレー缶で塗りたくられているラクガキが目立つ。
ここが秘密の場所なのか? と、情緒もないなと思わずにはいられない。
出入口から見て、左手側には、地下があるのか降りられる階段がある様子だった。
「あれ? こんなに散らかっているようなところだったっけ?
「一年も来てなかったから、荒らされちゃったのかもね」
中に入るのをためらって立ち尽くしていると、後ろから背中を勢いよく押されて倒れそうになりながら建物の中に入った。
背中を押したのは、もちろん、楓だった。
びっくりして振り向くと、彼女は笑っていた。
「どう? 思い出した? 私たち、一年前も同じコースでデートしたんだよ?」
当たり前だ。それが今日だけ会いたいと言っていた楓の要望だったんだから。
「思い出したもなにも、一年前じゃなくても来てたんだろ?」
「うん、そうだよね」
頷く楓を背中に感じると、俺は楓の方を振り向いて真剣な顔をした。
「楓。あのさ……俺たち……」
「何?」
俺が何を言おうとしているのかがわからないのか、戸惑ったような顔を俺に向ける。
その戸惑ったような顔をした瞬間に、俺は楓を抱き締めた。そして、こう言った。
「俺たち、やり直さないか?」
今日、再会して俺の方から「寄りを戻そうって言うんじゃないよな」って言ったけれど、今日一日楓と過ごしていて、とても心地よい気分だった。
どうして、楓が俺を振ったのかわからないけれど、楓は俺を振ったことを悔やんでいる様子だったし、こうやってもう一度会いたいって言ったのは俺に対する想いがまだ残ってたんじゃないかって思った。
彼女は応えるかのように俺の背中に腕をまわす。
「本当? すごく嬉しい! 本当は私もやり直したいって思ってたの」
良かった。多分、楓の方から寄りを戻すと言い出すのは、難しかったんだろう。だから、俺が先に言うことを待っていたのかもしれない。
また、彼女と恋人同士に戻れる。
その喜びを噛み締めていると、楓がトーンを落としてこう耳元で呟いた。
「じゃあ、取り消してくれるんだね? 一年前の今日、和義くんが私を振ったことを」