もう一人? もう一人ってどういうことだ?
俺が楓の言っていることを理解していないとわかっているようで、彼女は口角を少しだけ吊り上げて微笑むと、俺の中心にもう一度踊り始めた。
「そう、君は本当の和義くんじゃないの。私が創り出した別の存在。和義くんであって和義くんでない存在。それが君。君と会うのは、実際は今日が初めてなんだよ?」
「じゃあ、今、俺が感じたジャメヴは……」
楓は満足そうに頷くと、こう言った。
「それは、ジャメヴじゃないよ。だって、本当に私とは初対面だもの。でも、本物の記憶があるから困惑してたんじゃない? 会ったことがないはずなのに、会ったことがあるって意味合いではどっちかというとデジャヴだったのかもしれないね」
楓にジャメヴを感じたとは一言も言ってない。だけど、それを察するかのように楓は、俺が彼女にジャメヴを感じていたと言い切った。
「楓が俺を創った。だから、未視感のような既視感を覚えていた」
「そう。でも、なかなか上手くいかないものだね。一年前の今日のこと、和義くんは覚えていてくれてないんだよね。どれだけ頑張って記憶を埋め込んでも、今日のことを思い出してくれないだもの」
その時、俺はハッとなって気が付いた。一年前、楓と別れた前後の出来事を思い出せないことに……
俺は、目の前にいる少女に怖気を感じて、一歩も動くことが出来なかった。辛うじて動くのは口だけだ。
「ま、まるで、何回も試したような口ぶりだな」
強がってそう言ってみるが、声は震えて、足も同じように震えていた。
でも、そんな強がりすら踏み潰してしまうような戦慄の言葉を楓は口にした。
「うん、何回も試したよ。私は君のことを、和義くんのコピーとして初めて創り出した存在だなんて一言も言ってないよ?」
下あごに人差し指を当てながら、ゆっくりと俺の周りを歩き回りながら、天井を見つめて考え込んでいる。
思い出したかのように、出入口と俺の間に立って両手を叩いた。
「何回だったかなぁ? 五回目? ううん、君で六回目くらいかな? ちょうど二ヶ月に一回のペースで、和義くんを創り続けてたからね」
俺が六回目のコピーってことか? そんなことをこの少女は一年の間に繰り返していたっていうのか?
「ちょうど一年後になったから、記憶がちゃんと戻ってくれると期待しながら二ヶ月待ってたんだから。でも、ダメだった。どうしても、和義くんは私に振られたて思い込んじゃってるから。今までの和義くんも同じだったわ」
「ちょっと待て。じゃあ、じゃあ! 本当の俺はどこにいるんだ?」
俺がかすれた声で楓の言葉を遮りながら叫ぶと、楓はきょとんとした表情を浮かべたあと、おぞましい笑顔を見せながら、こう言った。
「一年前の今日、私が殺しちゃった」